ストロベリー・パニック(2006)

 全26話。

 原作はメディアワークス『電撃G's magazine』の読者参加企画・公野櫻子Strawberry Panic!」。監督は迫井政行、制作はマッドハウス

 聖ミアトル女学園、聖スピカ女学院、聖ル・リム女学校の3つの女子校と、3校共通の寄宿舎・いちご舎を舞台に繰り広げられる恋愛群像劇。古典的な百合のお約束や様式美で固めつつ、肉体関係にまで及ぶ大胆な描写も取り入れており、現在の多様な百合表現から見て先駆的・過渡的存在であったと評せる。男性目線を意識したような媚びた要素が目立つのは否めないが、作品世界からは男性が徹底的に排除されている。

 入念な構成や巧妙な伏線の張り方が特徴だが、裏を返せば仕込みが遅く登場人物の核心部分が終盤まで明かされないということであり、それが仇となって初見ではいまいち背後関係が見えにくく感情移入しづらい作品。代表的な百合アニメとして名前が挙がることが多いが、むしろ幾度もの鑑賞を要求する玄人向けであると言えよう。

 人物造形や設定情報の出し方にも難がある。ミアトルの渚砂と静馬、スピカの光莉と天音の2組のCPを両輪として話が展開するものの、渚砂以外は基本的にヘタレで敢えて応援する気になれない。特に光莉は、王子様を待つお姫様という三流少女漫画にありがちなうじうじめそめそした受動的な性格が鼻に付き、第25話でようやく意地を見せるが少し遅すぎるという感が強い。他にも、静馬は序盤の掴みでもっとカリスマ性を強調すべきだったとか、注文は幾らでも付けられるのだがこれくらいにしておこう。

 一方、本作の見所はやはり、片想いの切なさを余すところなく描き切った点にある。主軸の4人に比べると、周囲の人物の方が必死な想いを抱えているのが痛いほど伝わってきて、共感しやすいし好感が持てるのだ。第20話で玉青、第21話で深雪、第22話で夜々と要というように、それまでの人間関係が一気に収束へ向かってゆく怒涛の伏線回収は圧巻。特に「例えば地球温暖化だ」を筆頭に数々のネタと奇行で知られる要が、ここまで男前な役柄に回るとは誰が想像できただろうか。そして最終話の「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」という心震える演出。誰もが幸せな結末というのが不可能な中で、それぞれの想いをきちんと着地させ、一つの物語として纏め上げたところは高く評価したい。

 このように、色々と惜しい作品ではあるが、百合好きなら見過ごせない魅力があるのも確かだ。ガチ百合アニメがほぼ皆無な現状、観ておいて損はないだろう。

[百合の分類]1-3.自覚と告白