玄鉄絢『少女セクト』(2005)

 全2巻。初出はコアマガジンコミックメガストア』及び描き下ろし。

 百合エロの最高峰。女子校百合という触れ込みからは想像も付かない程にがっつりエロシーン満載ではあるが、巷に溢れ返る成人男性向け作品のように奇乳で汁塗れということはなく、写実的ではあれど品のある官能美が描かれる。心理描写も非常にしっかりしている上、細部まで丁寧に作り込まれた美麗な作画は目を瞠るものがある。難読人名を始めとする凝りに凝った設定や、ウィットに富んだ小粋な台詞回しは、やや通好みと言うか同人っぽい感じはするが、ありきたりな作品に飽き飽きした玄人には丁度良い濃厚かつ濃密な味わい。

 第1巻は毎回新しいカップリングが登場する1話完結、第2巻はそれまで狂言回しに甘んじていた2人の主人公・内藤桃子と藩田思信を主軸に据えて物語が進む。のっけから状況説明が殆ど為されず、最初は何が起こっているのか全く分からないという取っつき難さはあるが、読み進めてゆく内に世界観と人間関係が掴めてくる。一旦慣れてしまえば、一つの作品でこれだけ幅広く様々な関係性を楽しめるという贅沢な作りなのだと気付かされる。個人的には雪華と旦蕗のような拗らせ具合が大好き。

 全体的にポリアモリーを指向しているのも注目すべきところ。それが享楽的な性愛としてではなく、きちんと心情や関係性込みで肯定的に描かれているのも素晴らしい。10年前にここまで解放的な作品が存在したことに驚かされ、未だに百合の定義論争をうだうだ続けている連中がいるのもアホらしく思えてくる。

 百合漫画史上の名作の一つとして末長くその名を留めることは間違いない。とにかく過剰にして豊穣、豪華絢爛な作品世界に酔い痴れるべし。また、10年振りの新規描き下ろし「Extra Chapter III」がまとめ版のコンビニコミックに、スピンオフ作品「五十鈴のカウンター」が『イイタさんペイロード』第1巻に収録されているので、併せて読むことをお勧めする。

[百合の分類]1-4.駆け引きと対話