果竜/ほしのゆりか『プリズム愛蔵版』(1999)

 サークル「竜の子太郎」による同人誌の総集編。作者の果竜は、現在はほしのゆりか名義で活動している。DLsite.comで購入。

www.dlsite.com

 3人の少女の高校生活を描いた青春群像劇。低めの頭身に大きな瞳と、とても可愛らしく少女漫画らしい絵柄で、何気ない日常のふとした瞬間に揺れ動く感情を繊細に描き出す。学園生活も終盤に差し掛かり、当たり前だった日々も今の関係性もいつかは失われてしまうのだという予感が、やがて最も残酷な形で現実のものとなる。

 天真爛漫な風子に、密かに想いを寄せていた藍。しかし、その恋は、2人のためを思う余り友人の時華に否定されてしまい、さらに風子の前に気になる男が現れたことで、否応なく悲劇的結末へとひた走る。と、このように筋だけ追ってゆくと、同性愛を禁忌とする異性愛中心主義的なものに見えるかもしれない。しかし、本作はそれだけで終わらない。それまで一貫して藍を思い留まらせようとしていた時華が、あることをきっかけに「この恋は……始まっていたかもしれなかった」と自らの過ちに気付き、ホモフォビアの軛から脱却するのだ。そして後日談として、教員となった時華が、同性を好きだという女子生徒にちゃんと告白するよう背中を押す場面が描かれる。確かに、藍の恋は「眠ったまま」になってしまったが、決して無駄になったのではなく、時華の意識を変えたことで次の世代の恋を目覚めさせることに繋がってゆく。単なる悲恋として閉じることなく、明るい未来に開かれた、力強い希望に満ちた物語に仕上がっている。

 悲恋百合ではあるが、むしろここから新しい百合が始まってゆくのだと、高らかに新時代の到来を告げているかのようだ。たとえ創作の中のものだとしても、登場人物を不幸にするだけのホモフォビアがいかに不要であるか、本作は雄弁に物語っている。

[百合の分類]1-6.片想い