百合の定義・分類【三訂版】

 現状、多種多様な関係性が「百合」と大雑把に括られているため、「どこからどこまでが百合なのか」「この作品は百合と言えるのか」という不毛な議論がそこかしこで頻発している。この記事の目的は、百合と捉えられるコンテンツを大まかに分類し、「これは百合か否か」から「自分の好きな百合はどれか」への転換を促すことにある。

 もちろん、百合の定義の曖昧さこそが、毛色や方向性の異なる作品群を一つのジャンルとして束ね、ブームとして活性化させているという側面は否定できない。下手に細分化した分類を設けることで、ただでさえコミケでジャンルコードすら獲得できていないのに、さらに纏まりを欠いてブームが失速、空中分解してしまうのではないかという懸念も良く理解できる。しかし、そうした前提を共有していない一般人や新規ファンにとっては、何が百合なのか定まらない状況は分かりにくいだろうと思われるし、「○○は百合ではない」といった声に左右されてしまわないとも限らない。それ故、ある程度包括的な定義や分類を決めておくことは、百合ジャンルにとって意義があるものではないかと考える。

 ひとまず、百合について仮に定義しておこう。百合とは、「複数の女性の間の何らかの関係性、およびそれを描写する作品・ジャンル」を指す言葉である。この「関係性」がどのような感情や言動に基づくのか分析することによって、百合コンテンツを分類できると考えられる。以下、百合を「恋愛関係」「特別な関係」「親密な関係」の3種類に大別した上で、それぞれいかなる関係性が結ばれ、それがどのように描かれているのか、さらに細かい類型を提示する。呼称はあくまでも便宜的なもので、より良いものがないか試行錯誤中。

1.恋愛関係

 女性同士の恋愛・性愛関係。恋愛であると明言しているもの、または明言しておらずとも明らかに恋愛であると読み取れるものをここに含む。

1-1.逃避と代償

 強制異性愛の下で許婚や見合いを押し付けられるといった、性的自己決定権が脅かされた状況から一時的あるいは永続的に逃亡するため、代償行為としての同性愛に耽る様を描いたもの。

1-2.誘惑と葛藤

 魅力的な同性に誘惑され、「禁断の恋」だという葛藤を抱えつつも、同性愛関係に巻き込まれてゆく様を描いたもの。誘惑者は主人公を未知の世界へ連れ出してくれる存在として描かれ、多くが悲劇的な結末を迎える。藤本由香里による類型「真紅の薔薇と砂糖菓子」とほぼ同義。

1-3.自覚と告白

 主に思春期の少女同士が、セクシュアリティの揺らぎを経験する中で自らの想いを自覚し、告白を通して恋愛関係を育んでゆく過程を描いたもの。思春期特有の悩みと向き合い成長する、学園青春ものの側面を含むことが多い。

 例: 奥平あきら×万城目ふみ(志村貴子青い花』)

    熊倉真理子×大橋亜紀子(森永みるくGIRL FRIENDS』)

    椿輝紅羽×百合城銀子(『ユリ熊嵐』)

1-4.駆け引きと対話

 対等な個人である女性同士の自由恋愛を描いたもの。ある程度は精神的に成熟し、自分のセクシュアリティ概ね把握していることが多い。関係を進展させるため必要に応じて駆け引きが展開され、問題や障害が発生した場合は対話によって解決が図られる。

 例: 内藤桃子×藩田思信×他(玄鉄絢少女セクト』)

    宮下雪乃×岩井節子(秋山はるオクターヴ』)

    白鳥司×琴岡みかげ×鷲尾撫子(小林キナ『ななしのアステリズム』)

1-5.継続と安定

 既に付き合っていたり同棲したりしている女性同士のカップルを描いたもの。共同での生活設計や周囲へのカミングアウトといった、関係性の継続や将来に亘っての安定を志向する。大半が社会人百合で、性行為やそれに類する行為の描写を含む。

 例: 南雲摩耶×雨宮みちる(鳥野しの『オハナホロホロ』)

    鈴木アリサ×佐藤マリ(奥たまむし『明るい記憶喪失』)

1-6.片想い

 一方がもう一方の女性に想いを寄せている様を描いたもの。物語を通して想いが秘められたままであるか、告白しても拒絶されてしまった場合をここに含める。

 例: 大道寺知世木之本桜(『カードキャプターさくら』)

2.特別な関係

 愛情や友情という枠では括れない、曖昧ながら特別な感情が行き交う関係性。その内実はどうであれ、「この人は自分にとって特別な存在だ」という意識があるという点は基本的に共通している。恋愛であると明示的に描かれていないだけで、ほぼ恋愛関係であると言っても差し支えない、もしくは疑似恋愛的な様態を呈する場合も数多い。

2-1.引力

 互いの存在や精神性に共鳴し、まるで引力で繋がれているかのように、どうしようもなく強く惹かれ合ってしまうような濃密な関係性を描いたもの。「引力」という言葉の発明は『響け!ユーフォニアム』の最大の功績であり、百合界の一大事件と呼べるものであろう。

 例: 黄前久美子×高坂麗奈(『響け!ユーフォニアム』)

    アンジェ×プリンセス(『プリンセス・プリンシパル』)

2-2.パートナー

 運命的な必然や諸々の事情によって半ば巻き込まれるような形で関わり合いを持ち、強い精神的乃至は肉体的な結び付きを得るに至る過程を描いたもの。めきめき『オンリー☆ユー ~あなたと私のふたりぼっち計画~』に使われたキャッチコピー「強制百合」に近い。

 例: 天王はるか×海王みちる(『美少女戦士セーラームーンS』)

    パピカ×ココナ(『フリップフラッパーズ』)

    絢藤沙羅×花厳アイリス(嵩乃朔『吸血鬼ちゃん×後輩ちゃん』)

2-3.シェルター

 実存不安、コミュニケーション不全、社会的抑圧からの避難所として機能するような関係性を描いたもの。1-1「逃避と代償」に近いが、単に逃げ出すのではなく、女性同士の繋がりの中で傷を癒し、自分を見つめ直し、人間として成長することで自らの生き方や人との関わり方を再構築してゆくという積極的な意味合いがある。

 例: 天上ウテナ×姫宮アンシー(『少女革命ウテナ』)

    ラッカ×レキ(『灰羽連盟』)

    相沢羊×虎島ハナ(文尾文『私は君を泣かせたい』)

2-4.バディ

 特定の目的の下で行動を共にし、強固な絆と信頼で結ばれた関係性を描いたもの。2-2「パートナー」とは異なり、目的を遂行するためにはその相手を選ばねばならないという若干消極的な間柄であることが多いが、時が経つにつれ一緒にいることの大切さを気付かされ、優先順位が繰り上がることもある。対等なバディだけでなく、主従百合等の非対称的な関係も含む。

 例: ミレイユ・ブーケ×夕叢霧香(『NOIR』)

    苗木野そら×レイラ・ハミルトン(『カレイドスター』)

    アリカ・ユメミヤ×マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム(『舞-乙HiME』)

2-5.巨大不明感情

 少なくとも片方が、相手の女性に対して過大な強度の感情を抱いている様を描いたもの。具体的には、好感、尊敬、憧憬、羨望、崇拝といった評価系、独占欲、庇護欲、依存、加虐・被虐願望といった執着系、ライバル視、嫉妬、憎悪、殺意といった敵対系の3種類に大別できる。ただし、これらの様々な感情が複雑に織り交ざり、とても一言では言い表せないことが多い。

 例: マミーナ×ロードレアモン(『シムーン』)

    鹿目まどか×暁美ほむら(『魔法少女まどか☆マギカ』)

    シャリオ・デュノール×クロワ・メリディエス(『リトルウィッチアカデミア』)

2-6.寄り添い

 近しい関係の中で互いを緩やかに意識するような様を描いたもの。一緒にいると安心する、その人の隣が自分の居場所だというような感覚を伴う。

 例: 岸辺志乃×岸辺希(くずしろ『兄の嫁と暮らしています。』)

3.親密な関係

  特に特別視はしていないが、仲が良く親密であるような関係性。友情や家族愛から、単なるきゃっきゃうふふまで幅広く含む。

 

 上記の「1.恋愛関係」を「ガチ百合」、「2.特別な関係」と「3.親密な関係」を合わせて「ソフト百合」と呼称することにする。本ブログの各記事にはこの分類を末尾に記載し、それを基にタグ付けを行うことにする。

 過去の定義・分類はこちら。

yuri315.hatenablog.com

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