天野しゅにんた『私の世界を構成する塵のような何か。』(2012)

 全3巻。初出は一迅社コミック百合姫』及び描き下ろし。

 女子大生7人の青春群像劇。複雑に入り乱れた人間関係を飄々と描き出し、ドロドロ百合ながら非常に洗練された印象を受ける。それぞれの個性をしっかり掘り下げ、綺麗事や安易な解決に頼ることなく恋愛の一筋縄では行かぬ部分と向き合いつつも、こじれた関係性に納得のいく着地点を与えている。

 ファッション雑誌の恋愛讃美を弾劾するという掴みにまず引き込まれた。仮にそれが本当の愛なるものに目覚めるまでの前振りであったならば、世間一般の恋愛至上主義や規範的なジェンダー観に縛られた凡百の恋愛ものと変わらなかっただろう。しかし本作は、一貫して恋愛を理想化することなく「塵のような何か」として描く。第1巻で思わず祥の携帯を取り上げ恋心を自覚した留希や、第2巻の笙子と明日菜の別れは、清々しいまでに痛々しい。第3巻で留希と祥の辿り着いた結末も、決して生易しいハッピーエンドではない。しかしだからこそ、等身大で魅力的な人間ドラマに仕上がっているのだ。

 最初は彼氏の言いなりになってばかりの祥が生理的に受け付けなかったが、第3巻冒頭の「やらせたらおとなしくなるのは同じ」という独白からは一転して大好きになった。どうも闇を抱えたキャラには惹かれてしまう。いつも真面目できちんとした留希が、そんな祥にいいようにされて駄目な子になってしまうのも萌える。また、祥に彼女が出来たと告げられた際の妹の反応も素敵だ。家族の描写が全体的に少ない中、こうした形で祝福される場面が入っていて嬉しかった。

 なお、記事執筆時点で第3巻のみ国立国会図書館に収蔵されているが、第1巻と第2巻は入っていない。一迅社はちゃんと納本して下さい(3回目)

 ※追記。2017年2月20日、国会図書館OPACに1、2巻の書誌情報が追加された模様。

[百合の分類]1-4.駆け引きと対話