ユリ熊嵐(2015)

 全12話。

 オリジナルアニメ。監督は幾原邦彦、制作はSILVER LINK.。キャラクター原案は前回記事を書いた『瑠璃色の夢』の著者・森島明子

 「スキを諦めなければ世界は変わる」という主張は過去作と通底する。世界観は『ピングドラム』から更に進展し、何者にもなれない者たちが、悪の選別と排除による集団の防衛という第三の生存戦略を無意識的に講じて「透明な嵐」として君臨している。言わば「こどもブロイラー」の内面化であり、透明な存在として場の空気に意思決定を委ねることで実存不安を回避しているのだ。しかし同時に、「断絶の壁」の向こう側とは絶えず緊張状態にあるし、こちら側でも周囲から浮いた異質な言動を取ると「排除の儀」によって疎外されるという恐怖に常に晒されている。本作は、そのような同調圧力の構図を個人が一気に変えることは難しくとも、「スキ」を貫くことでゆっくりとでも変革の連鎖を起こしてゆけるのだという希望を示す。最終話、紅羽と銀子は「約束のキス」を交わして現世から退場するが、その瞬間を目撃した亜依撃子とメカこのみの間で新たなスキが芽生える。実際に「世界はあなたのスキで目覚め変わってゆく」ことを見せ、この物語は「あなた」の物語ですよと視聴者に投げ掛けることで、『ウテナ』の劇場版でも部分的に示されていた脱出の継承という思想がより鮮明に伝わってきた。

 愛の様々な形を、3話毎に交代する敵によって表現するという構成が秀逸だ。透明な嵐に上手く乗っかりつつ、その場のノリと利己的な欲望に衝き動かされる百合園蜜子。完全には透明になりきれず、実際は承認を求めていた針島薫。相手を己の理想のまま留めておくことが叶わず、ひたすら心の空虚さを埋めようとし続けた箱仲ユリーカ。そして、自覚的に思考停止し透明であり続けることを選択した大木蝶子。彼女達は皆「本物のスキ」を見つけることは出来ない。嫉妬や傲慢といった罪を認め、醜い自己を破壊しなければ「約束のキス」は交わせない。ここまで多角的に愛を描いてきたからこそ、そんな当たり前すぎて残酷なことを躊躇なく言い切ってのけるだけの物語強度を生み出している。

 そして百合である。しれっと人物紹介に表示される「ユリ」の二文字に呆気に取られ、肌色まみれのユリ承認や濃厚に絡み合うユリアムールに笑いを誘われ、実は直球で百合恋愛を描いてくるところに胸を打たれる。特に、るるの一途な片想いには思わず涙してしまう。「私はスキを諦めない、キスを諦めます」というるるの台詞には、これ以上に美しい片想いの表現があるだろうかと感嘆させられた。るる可愛いよるる。

 1クールと短く、前2作に比べて寓話としての抽象度が高かったせいもあって、思想が凝縮されて破壊力抜群になっている。耳に残る独特の決め台詞はますます磨きが掛かり、ケレン味溢れる演出や、映像にぴったり嵌った音楽も絶好調。示唆に富む社会批判と濃密な百合の詰まった異色の傑作。

[百合の分類]1-3.自覚と告白 他