秋山はる『オクターヴ』(2008)

 全6巻。初出は講談社アフタヌーン』。

 社会人女性同士のカップルを写実的に描いた力作。恋愛を一切理想化せず、嫉妬、依存、承認欲求、自己嫌悪、未熟さゆえの諍いや擦れ違い、そして同性愛ならではの周囲の無理解など、とことん生々しく痛々しい展開が続く。弱さや不安を抱えた悩める若者が、いかに自己と他者に正面から向き合ってお互いの関係を築いてゆくかという問題意識を真剣に突き詰めており、百合好きでなくとも一読の価値はある。

 第2巻の行きずりの男と一夜を共にする展開が良くも悪くも注目されがちだが、個人的に「ここまでやるのか」と感じたのは、むしろ第5巻の地元の友人と決別する場面。主人公・雪乃に彼女が居ることを自分の彼氏に漏らし噂を広めてしまったにも拘らず、図々しくも彼氏を擁護しつつ謝罪した友人。それに対する「もう二度と会いたくない」という雪乃の独白に心を抉られる。想像力の欠如ゆえの邪悪な善意を手厳しく非難する名場面だ。

 百合に癒しや安らぎを求める人には全く向かないだろう。ふらふらと流されてばかりの雪乃を好きになれないという人も多いと思う。けれども、わたしは本作を萌えないからと切り捨てる人よりも、とてもリアルで共感できた、強く心を動かされたという人と仲良くしたいものである。

[百合の分類]1-4.駆け引きと対話