井村瑛『最低女神』(2012)

 短編7本。初出は一迅社コミック百合姫』、他に未発表作や描き下ろし等。

 柔らかな描線でふんわりとした可愛らしい女の子と、暗い感情が渦巻き翳のある人間模様の取り合わせが味わい深い。重めの設定が多く胸を締め付けられながらも、極端に殺伐とすることはなくどこか温もりを感じさせる。画力はやや不安定にも見えるが、それによって今にも壊れてしまいそうなひりひりした空気感を出せていると思う。

 「プラチナサンディ」は、滅びた世界という舞台設定が個人的にツボであった。極限状況における精神崩壊という物語展開は使い古されたものだが、その引き金を引いたのが友達だと思っていた同性からの告白ということで、上質な百合作品に仕上がっている。真実を隠蔽しつつ巧妙に伏線を張り、読者をあっと驚かせる手腕も鮮やかだ。

 デリヘル嬢×お嬢様の「リバーサル」も良いのだが、後日談として描き下ろされた「リバーシブル」の方が好みの絵柄。ツンデレ同士の掛け合いが何とも微笑ましい。救いの無いお話が続く中、最後のページの琴子の笑顔のお蔭で、ほっこりと温かな気持ちで読み終わるのも嬉しいところだ。

 なお、本作も記事執筆時点で国立国会図書館に収蔵されていない。一迅社はちゃんと納本して下さい(2回目)

 ※追記。2017年2月20日、国会図書館OPACに書誌情報が追加された模様。

[百合の分類]1,4-S