コダマナオコ『コキュートス』(2014)

 中編2本。初出は一迅社コミック百合姫』及び描き下ろし。

 登場人物の心の声を丁寧に拾ってゆき、気持ちや関係性がじわじわと変化してゆく様を鋭くシリアスに描いている。特に、冷たい表情や目線の描画に凄味があって、思わずぞくりとさせられる。

 表題作は、ドロドロとした心の動きもさることながら、気持ちが先走って体に手を出してしまう展開が読み応えたっぷり。内面描写もエロもきっちりと研ぎ澄まされている点はコダマナオコ作品の大きな魅力である。

 2作目の「モラトリアム」が大のお気に入り。主人公の真央は、大学で知り合った友人・伊月に恋愛感情を持たれていることに気付くが、自分には伊月に対する独占欲はあれど性欲はないことも自覚する。この「恋愛ではないけれど好き」という感情のドロドロした部分から目を逸らさずに描き切っているのが素晴らしい。「百合は精神的なつながりこそ至高、肉体関係とか要らない!」なんてことを言う人は、その欲望がいかにおぞましさを孕んだものか、本作を読んで向き合ってほしいものだ。

 更に秀逸なのは、その後に伊月視点の描き下ろし「モラトリアム -ITSUKI side-」を追加したところだ。ここで、実は伊月は、真央が自分の気持ちに気付いていることを知っているのだと明かされる。全て分かった上でお互いの駆け引きが続いてゆくことを匂わせつつ物語は幕を閉じる。こういう歪んだ愛とかドロドロ百合とか大好物です。

 ただ、一つ気になったのは、真央の元彼が「女同士はキレイだけど男友達に恋愛対象として見られてたら無理」といった台詞を吐くこと。真央が「自分は無理じゃないのか」と自問自答する流れと繋がっているのだが、人によってはホモフォビアだと嫌悪感を覚えるかもしれない。「自分は男を恋愛対象としては見れない」的な、自己の性的指向を語る表現にした方が良かったのではないか、という印象。

 全体的に、鮮烈な切れ味のドロドロ百合が存分に楽しめる良作である。ちなみに、カバー下のあとがき漫画がちょっと面白い。そっか、これも百合か、と妙に感心してしまった。

 それから、記事執筆時点で本作は国立国会図書館に収蔵されていない。一迅社はちゃんと納本して下さい。

[百合の分類]1-4.駆け引きと対話

 完全版についての記事はこちら。

yuri315.hatenablog.com