百乃モト『宝石のようなもの』(2016)

 短編11本。商業・同人から再録した同人誌。

 少女漫画的な繊細なタッチの絵柄で、揺れ動く感情を丁寧に描き出している。切ない片想いが多く、両想いでも両者の擦れ違いやぶつかり合いをしっかり見せてくれる。学生百合だけでなく作者の得意とする社会人百合もあり、バランスの取れた短編集だ。

 作者の既刊『キミ恋リミット』『レイニーソング』と内容的に繋がっている作品があるが、これ単体でも充分に楽しめた。特に、前後編で構成される「エッちゃんとマイちゃんの恋模様」が出色の出来。片想いが実を結ぶまでを描いているのだが、単純なハッピーエンドでなく、今後どう転んでゆくのか分からない不安感を残し余韻のあるラストに仕上がっている。現時点での短編百合漫画私的No.1作品。

 幼馴染のナツミに想いを寄せるよっちゃんを描いた「バスタイム」には、胸が成長したナツミを「えろぃ」と言うよっちゃんに対し、「あたしはよっちゃんのがエロぃと思う」とナツミが言い返す場面がある。胸という記号的な性的魅力よりも、秘めた恋心から自然と滲み出る色っぽさの方がずっと「エロぃ」。この短編集は、そうした透明感のある色っぽさに溢れている。

[百合の分類]1,4-S