百合の定義・分類【改訂版】

 これまでの作品評を踏まえた上で、以前の記事よりも実践的な百合の定義・分類方法を考えてみたい。

 現状、多種多様な関係性が「百合」と大雑把に括られているため、「どこからどこまでが百合なのか」「この作品は百合と言えるのか」という不毛な議論がそこかしこで頻発している。この記事の目的は、百合と捉えられるコンテンツを大まかに分類し、「これは百合か否か」から「自分にとっての百合はどれか」への転換を促すことにある。

 

 百合は女性2人(以上)のカップリングがなければ成立しない。カップリングとは、「双方向的に感情や言動が遣り取りされる関係性」であると定義しておく。そして、百合CPを1組以上含む作品が百合コンテンツであり、作中の主要なCPがどのような感情や言動に基づくのか分析することによって百合コンテンツを分類できると考えられる。

 ここで注意したいのが、片想いの取り扱いだ。片想いは一方通行の感情であり、一見するとCPを作り得ない。当然、片想いされる側がする側に全くの無関心・無反応であればその通りだ。しかし、百合コンテンツで取り扱われる片想いは、反作用としての逆方向の感情を伴う。たとえば、熱烈なアプローチに対して「こっち来んな」と冷たく拒否するといった対応が考えられるだろう。この関係性が美味しいと感じられれば、それは立派なCPとして萌えの対象となるのだ。

 また、片想いと一口に言っても様々な種類があり、それによって同じ「こっち来んな」という対応であっても異なる色彩を帯びてくる。真剣な交際を申し込まれた場合における「こっち来んな」は、付き合うつもりは全くないという断固とした拒絶反応となる。一方、幼馴染からいつものように好きだと纏わり付かれた時の「こっち来んな」には、逆に冷たくすることで主導権を握ろうという意図が隠れているとも受け取れる。このように、関係性の質や濃度は、たとえ片想いであっても様々に分けて考えることが出来るのである。

 

 では、実際に関係性の類型や描き方による分類を試みたい。明らかに百合と言えるものはともかく、何となく百合っぽく感じるものについて、その内実はいかなる関係性が描写されているのかに留意して分けてみた。呼称はあくまでも便宜的なもので、より良いものがないか試行錯誤中。

1.レズビアン

  少なくとも片方が女性同性愛者または両性愛者であることを前提や暗黙の了解として、女性同士の恋愛・性愛模様を描いたもの。精神的に成熟し、既に自分のセクシュアリティを概ね把握していることから、関係性の中での感情の揺れ動きや心理的駆け引き、周囲や社会との軋轢などが中心的関心に位置する。大半が性行為やそれに類する行為の描写を含む。

 ビアン同士のいちゃらぶ結婚生活からノンケ相手の悲恋百合、果ては体だけの関係やポルノ紛いの作品まで含むため、下位分類を設けた方が良いかもしれない。

 例: 秋山はる『オクターヴ』(2008) - 百合の散歩道

    森島明子『瑠璃色の夢』(2009) - 百合の散歩道

2.自覚系

 主に思春期の女性同士が、セクシュアリティの揺らぎや葛藤を経験する中で自身の性的指向を自覚し、恋愛関係を育んでいく過程を描いたもの。思春期特有の悩みや実存不安と結び付いた形で、学園青春ものとして成長物語の側面を含むことが多い。かつては既存の性規範を無批判に内面化した耽美系が大部分を占めていたが、現在は自分や相手ときちんと向き合うことを重視する真摯な作品群が主流となっている。清い関係で踏み止まる場合と、肉体関係に踏み込む場合の両方が存在する。

 例: 志村貴子『青い花』(2006) - 百合の散歩道

    森永みるく『GIRL FRIENDS』(2008) - 百合の散歩道

 以上1~2を「ガチ百合」と一括りにすることもできるだろう。一方、ここからは下に行くにつれて恋愛と呼ぶのは躊躇われるような微妙な関係性となる。

3.示唆系

 「好き」等と言ってはいても、それが具体的にどのような感情なのか、どこまでの関係性を求めているのか判断が難しいもの。性行為やそれに類する行為の描写がなかったり、あっても抽象的・観念的に描いていたりして、恋愛かどうか曖昧である場合にこの分類を適用する。

 もしくは、少なくとも片方は明らかに恋愛感情を抱いているとしか思えないのだが、作中では明言や断定をされず、仄めかされるだけで留まっているもの。各人の百合フィルターの強さによって範囲が広がったり狭まったりするが、基本的には「いやこれはもう確実に付き合ってるわ」と大多数による合意が成立する程度の描写を想定している。例に挙げた2人が分かりやすいだろう。

 例: 天王はるか×海王みちる

    ユリ熊嵐(2015) - 百合の散歩道

4.特別視系

 少なくとも片方が相手の女性に、通常想定されるよりも遥かに強い感情を抱いている様を描いたもの。恋愛とは一線を画すものの、実存や人生に関わる核心的問題として受け止められる程の激しい想いや結び付きを伴う。具体的には、好感、尊敬、憧憬、羨望、崇拝といった評価系、独占欲、庇護欲、依存、加虐・被虐願望といった執着系、ライバル意識、嫉妬、憎悪、殺意といった敵対系の3種類に大別できるだろう。これら全てに共通しているのは「この人は自分にとって特別な存在だ」という意識である。それ以上は各自妄想や二次創作で補うべし。

 ピュア百合は純粋な魂の交流を美化し、精神的な繋がりこそ至高とする一派には非常に受けが良い。ドロドロ百合は行き過ぎた愛のディストピアに陥りがち。

 例: 灰羽連盟(2002) - 百合の散歩道

    魔法少女まどか☆マギカ(2011) - 百合の散歩道

5.絆系

 女性同士が強固な信頼関係や友情で結ばれている様を描いたもの。内面描写が乏しく、殊更に惹かれたり意識したりしているかは不明だが、一般的な友達や親友よりも高い次元で互いを唯一無二の相手として認め合っているように見受けられるものを指す。そこから先は妄想・二次創作どんと来い。

 関係性の外部との抗争には強い団結力を発揮するため、バトルものやSFとの親和性が高い。

 例: エル・カザド(2007) - 百合の散歩道

    咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A(2012) - 百合の散歩道

6.親密系

 少なくとも片方が相手の女性に、度を越して強い愛情表現や身体的接触をしているようなもの。具体的には、じゃれ合ったり抱き着いたり胸を揉んだりといった、過剰なボディタッチや濃厚なスキンシップなど。当人らの意識が確実に恋愛感情であれば分類1に含むべきだが、友達感覚の延長であったり不明瞭であったりする場合にはこの分類を適用する。

 もしくは、日常生活の中で偶然見かけた女性同士が親しげにしている情景や、その種の断片的な描写に、百合センサーが反応して萌えるようなもの。前後の文脈から切り離されており当人らの感情が分からないことが多いが、むしろ分からないからこそ妄想の余地が生まれ、大きな瞬発力を持ち得ると言える。

 例: きらら系(←割と偏見)

 以上3~6を「匂い百合」と総称しておく。3~5は描き方で分けており、実際の中身は重なる部分も多いと思われるが、ひとまずこれで置いておく。

 

 上記6種類のいずれかに当てはまる関係性が「百合」であると定義する。この分類に作品の方向性やジャンルによる分類を組み合わせれば、どのような百合が描かれているか大体把握できるだろう。そして、自分が好きな作品がどの分類に該当するか見ていけば、百合萌えポイントが掴めるというわけだ。ここでは、ひとまずシリアス(S)とコメディ(C)の2種類にジャンル分けして、関係性の分類と合わせてみようと思う。

 

 具体的な表記法は次の通り。複数の種類の関係性が併存している時は「,」で並べ、主・副が明確なら後者を「()」で括る。一対の関係性が基本的にはある分類に該当するが他の分類にも近かったり、2人の姿勢がそれぞれ異なる分類に分かれたりする場合には「/」で区切るが、なるべく分類を確定させたいので多用は控えようと思う。

 次にジャンルについては、大筋はシリアスで時折コミカルなら「S(C)」、その逆は「C(S)」、段々シリアスからコメディに移っていくものは「S,C」、その逆は「C,S」とする。そうした緩急がなく、どちらともつかない場合は、勢いや熱量で畳み掛けるような作品は「SC」、明るくほのぼのハートフルな作風であれば「CS」と表記する。

 そして、関係性とジャンルの分類をそれぞれ「-」で繋ぐ。たとえば、示唆系寄りの絆系CPを中心に特別視系CPも描かれ、テンションの高いバトルものであれば「5/3,(4)-SC」と表記することになる。

 

 今後書く感想はもちろん、以前に感想を書いた作品についても、以上の方法に従って新たにやり直した分類を末尾に書き加えてゆくこととする。了承されたい。

 より汎用性の高い定義・分類を考えてゆきたいので、ご意見あればコメント欄へどうぞ。