志村貴子『青い花』(2006)

 全8巻。初出は太田出版マンガ・エロティクス・エフ』及び描き下ろし。

 百合漫画界に燦然と輝く古典的名作。主軸に据えられるのは女子高生2人の恋愛だが、周辺の人物のヘテロ含む恋模様も等身大に描き込まれ、美しく繊細な青春群像劇に仕上がっている。胸が張り裂ける余り、やむなく読むのを小休止してしまう程の切なさと、自ずと笑みが零れる温かさに満ち溢れており、読み返す度に深い感動を味わえる。

 女子校を主な舞台としながらも、視野狭窄に陥らずここまでリアルな物語を紡ぎ得たのは、2人の主人公が別々の学校に通うことでそれぞれの人間関係を膨らませ、閉鎖的にも開放的にもなり過ぎなかったからだろう。登場人物の背景を分散させることで、ある程度ばらばらに自由な行動をさせつつ、空中分解することなく大きな流れを作り出している。そこに親子や姉妹といった家族関係も取り入れたことで、重層的で奥行きのある物語世界を構築したというわけだ。

 個人的には、大野織江さんと山科日向子さんのカップルが一番好き。本筋が遅々として進まない一方で、こういう生活感のある百合関係が脇を固めているのも、本作を極上の恋愛物語たらしめる所以の一つだろう。恋愛における障害は、当事者同士の実存的な葛藤と、周囲との関わりの中で発生する問題の2種類に大別される。あーちゃんとふみちゃんの関係性が前者中心な上にかなり理想的な形で完結するため、後者を中心的に扱った織江さんと日向子さんの話を付加することで、物語世界に多角的な視点を導入することに成功しているのだ。まあ、大人版の織江さんが外見的に最も好みというのもあるが。

 本作を超える百合漫画は当分出てこないだろう、そう思わせるには充分な出来。未読ならとにかく読むべし。百合に興味がない人にもお勧めできる作品だ。

[百合の分類]2(1)-S