serial experiments lain(1998)

 全13話。

 オリジナルアニメ。監督は中村隆太郎、制作はトライアングルスタッフ

 良くも悪くも実験的な作品。前半は断片的な情報しか提示せず、後半からようやく事件の顛末や世界観の全貌が姿を現し始める。それでも、どこからどこまでが本当に起こったことなのか曖昧にするような演出や、嘘や誤解を放置したまま進む展開のせいで、多くの謎を残す難解な物語となっている。仮想世界「ワイヤード」が現実世界「リアルワールド」を書き替えてゆくという典型的なサイバーパンクでありながら、最後には科学技術による世界認識の拡張よりも人間の自我に基づく実存的な意思を肯定した点は興味深かった。

 百合を期待して観るものでは全くないが、第12話で玲音がありすを「繋げる」ことを拒否する場面は百合として大変尊いものになっている。確かに繋げてしまえば思い通りにはなるだろうが、それでは「ありすが好き」という気持ちが届いたことにはならないのだ。胸に手をやらせて心臓の鼓動を聞かせるというまさに百合的お約束展開が美しい。結局想いは叶わず、最終話で玲音はありすのために世界から自身の記録を抹消し、誰からも認識されない存在となるのだが、それでも「ずっと一緒にいる」という意思を拠り所にして生き続けることを選ぶ。報われぬ片想いを回りくどく大掛かりに謳い上げたと言えなくもない。

 人を選ぶカルトアニメであることは間違いないし、ぶっちゃけ然程面白くもない。ただ、不気味で不安を煽る独特の雰囲気や、視聴者の立脚点までもぐらつかせるような実験的映像は、今時の萌えアニメに慣れた者には新鮮な驚きをもたらしてくれるだろう。一見の価値ある怪作である。

[百合の分類]2-5.偏愛