さかもと麻乃『沼、暗闇、夜の森』(2013)

 短編7本。初出は一迅社コミック百合姫』及び描き下ろし。

 どれも癖のある話で、普通から少しズレてはいても百合としての楽しみを踏み外さない。明と暗のバランスも良く、作者の豊かな感性と引き出しの多さに舌を巻くこと請け合いだ。

 冒頭の「魔少女」からして凄い。入念に仕組まれた構成、美しくも残酷な物語。恋が愛にならなかったという主題だけ取っても充分な読み応えがあるのに、そこにバラのトゲを抜くという比喩を効果的に入れ込んだのが実に巧い。恋愛を通した人間的成長というのは得てして美談になりがちだが、そうした健全な常識に疑問を投げ掛けるという大切かつ危険な視点を教えてくれる。

 それにも増して心を鷲掴みにされたのが表題作。わたし好みの素敵に怖いヤンデレ百合で、どこから妄想でどこから現実なのかいくらでも想像が膨らんでゆく。架空の話し相手を幽霊でなく「死人」と表現したところも、逆にリアルな不気味さを際立たせる。最後の黒田さんの意味有り気な微笑みと「これより1日が始まります」という締めの独白が、今後どうかなってしまうのかと不安を掻き立てる。ぞくりとする読後感が堪らない。

 他にも、遠景がなくともセカイ系は綺麗に成り立つのだと示す「世界の終わりとケイコとフーコ」、どこまでもシュールで楽しい「下着通り」「ケンカ」など、魅力的な作品が揃い踏み。一風変わった百合漫画を読みたい時にうってつけの一品。

 なお、本作も記事執筆時点で国立国会図書館に収蔵されていない。一迅社はちゃんと納本して下s(ry

 ※追記。2017年2月20日、国会図書館OPACに書誌情報が追加された模様(これ付け加えるの好い加減に面倒臭くなってきたな……

[百合の分類]1-4.駆け引きと対話 他