森島明子『瑠璃色の夢』(2009)

 短編7本。初出は一迅社コミック百合姫』及び描き下ろし。

 社会人百合の名手による珠玉の短編集。ふんわりと丸っこい絵柄で、明るくほのぼのとした作風が特徴。どの女性も可愛く人間味に溢れており、彼女達の甘く幸せな恋を見ているだけでほっこりする。身体を交わす描写もエロいと言うより想いが通じ合う様が伝わってきて心安らぐ感じ。描かれる愛も込められた愛も規格外だ。

 個人的に気に入ったのは、逆ギレからの逆告白が痛快な表題作、昔は恋人同士だったが今は恋のライバルという設定が光る「ハニー&マスタード」、微笑ましい喧嘩と仲直りを描いた「20乙女の季節~Virsin Season~」の3編。だが、本作を語る上でやはり外せないのが「追憶~ノスタルジー~」だ。恋愛・友愛・家族愛の融合した、百合の一つの到達点を感じる。百合漫画史上最も好感を持てる男性キャラかもしれない託人くんも見所の一つ。何度も読んでその深い味わいを堪能してほしい一品である。

 ちなみに、既刊や続刊との繋がりが多いのも本作の特徴。「20乙女の季節~Virsin Season~」「満月の夜には」は『楽園の条件』所収の「20娘×30乙女」「「攻」↔「守」」の後日談、「半熟腐女子」は『半熟女子』の番外編となっている。また『レンアイ♥女子課』に「ハニー&マスタード」の続編が、『初めて、彼女と。』には同作と表題作のサイドストーリーが収録されている。一冊だけでは物語の断片しか知ることが出来ないのは少し残念ではあるが、併せて読めば楽しさ倍増と肯定的に捉えるのが吉。

[百合の分類]1-3.自覚と告白/1-4.駆け引きと対話